【課題4042】
誰かの相談に乗る際、スキル(問題解決力)よりも先にどのような心構えが必要だと思うか。自分なりの考えをまとめてください。
「何かアドバイスをください。」
そう言われた瞬間、私たちの頭はまたたく間に動き始めます。
相手のために、何か良い答えを出さなければ、と。
しかし、そうやって急いで差し出そうとする答えは、本当にその人のためのものなのでしょうか。
相手を助けたいという思いの裏側で、私たちは無意識のうちに、自分の中にある「正解」を急いで探しているだけなのかもしれません。
- 「問題を解決すること」だけが、相談のゴールなのだろうか
- 相手を想う「善意」の裏側に潜む、小さな危うさについて
- 答えを急いで渡す人よりも、相手が答えに出会う「時間」を支える人へ
この記事は、相談に乗るという行為について、セールスパーソンおよびビジネス指導者としての立場から、私自身の考え方を整理し共有するものです。
相談に乗ることは、問題を解決することなのか
仕事の現場でも、日々の暮らしの中でも、人から相談を受ける機会は不意に訪れます。
とくに経験を積めば積むほど、私たちの中には「こうした方がいい」「私ならこうする」という引き出しが増えていくものです。
それ自体は決して悪いことではありません。
積み重ねてきた経験は大切な財産ですし、過去の失敗や成功から得た知見が、誰かの道標になることもあるでしょう。
それでも、相談に乗るという時間を思い返すたびに、ふと立ち止まって考えてしまうことがあります。
相談に乗るということは、本当に「問題を解決する」ということなのだろうか、と。
もちろん、具体的な解決策を大急ぎで必要としている場面もあります。
しかし多くの場合、人はただ「答え」だけを求めているわけではないように思うのです。
誰かに話を聞いてほしい。
自分の内側にあるものを整理したい。
うまく言葉にならない迷いを、一緒に眺めてほしい。
そんな、目に見えない思いを抱えながら打ち明けてくれたのだとしたら。
私たちが最初から「正解」を渡そうとすることは、ときに相手が本当に求めているものから、遠ざかってしまうこともあるのかもしれません。
問題解決力より先に必要なもの
相談に乗る人に必要な力として、多くの人は「問題解決力」を思い浮かべるかもしれません。
確かに、それも大切な能力です。
けれども私は、その技術を磨くよりも先に、心に留めておきたい姿勢があるように思っています。
それは、「相手を自分の思い通りに変えようとしないこと」です。
誰かの相談を受けるとき、私たちは無意識のうちに、相手を「良い方向」へ導こうとします。
部下なら、健やかに成長してほしい。
後輩なら、同じ失敗をしてほしくない。
お客様なら、最善の選択をしてほしい。
家族なら、ただ幸せになってほしい。
そこにあるのは、純粋な善意です。
しかし、善意だからこそ、少しだけ気づきにくい難しさがあります。
私たちが「良かれと思って」抱く願いは、ときとして、自分自身の価値観を相手に重ね合わせる力に変わってしまうことがあるからです。
本人はそっと手を差し伸べているつもりでも、相手にとっては押し付けに感じられる。
本人は行く先を照らしているつもりでも、相手にとっては「自分の今いる場所を理解してもらえていない」という寂しさにつながる。
誰かの力になりたいと願うときほど、私たちはこの静かな危うさを、どこかで覚えておく必要があるのかもしれません。
人は正しい答えで動くわけではない
人を指導する立場に就いたばかりの頃、私はできるだけ多くの「答え」を相手に手渡そうとしていました。
こうすればうまくいく。
この場面では、こう考えるべきだ。
投げかけられた質問には、こう切り返すといい。
相手のためを思い、そんなことを一生懸命に伝えていた時期があります。
ところが、熱心になればなるほど、どこか思うようにいかない日々が続きました。
こちらが「これこそが正解だ」と思って伝えたことほど、相手はなかなか実践してくれないのです。
一方で、肩の力を抜いた何気ない雑談の中で、本人がふと「あ、そうか」と呟いたことの方が、その後の見違えるような行動に繋がることがありました。
そんな経験を重ねるうちに、私は少しずつ、ある大切なことに気がつき始めました。
人は、いくら正しい答えを並べられても、それだけでは動けない生き物なのかもしれない、と。
誰かの言葉に、自分自身で納得できたとき。
手渡された知識が、その人の内側で「本当の意味」を持ったとき。
そのとき初めて、人は自ら一歩を踏み出します。
知識やノウハウが不要なわけではありません。
けれども、相談に乗るという行為の本当の役割は、相手の代わりに答えを出してあげることではないように思うのです。
相手が、自分自身の内側にある「答え」にいつか出会う。
そのための静かな時間と空間を、一緒に育んでいくこと。
遠回りのようで見えるその道のりこそが、実はとても本質的なのかもしれないと感じています。
良い相談相手とは何をする人か
では、本当の意味で「良い相談相手」とは、どのような人のことを言うのでしょうか。
私はかつて、誰よりも「たくさんの答えや選択肢を持っている人」のことだと思っていました。
けれども今は、少し違う景色を見ています。
良い相談相手とは、なによりもまず「相手の思考を邪魔しない人」なのではないか、と。
誰かの話を聴いているとき、私たちはつい先急ぎしてしまいます。
相手が話している途中で、自分の中で「結論」が見えてしまうことも少なくありません。
けれども、その頭に浮かんだ結論は、本当に目の前の人のものでしょうか。
相談を受ける側が先回りして答えを置いてしまうと、相手の思考はそこでふっと止まってしまいます。
まだ言葉になっていないかすかな感情や、整理のつかないまま漂っている考え、そして、本人さえもまだ気づいていない小さな本音。
そうした大切なものがこぼれ落ちてくる前に、私たちは「正解」という名の蓋をしてしまうことがあるのです。
だからこそ、相談に乗る人には「聴く力」と同じくらい、あるいはそれ以上に「待つ力」が必要なのかもしれません。
相手が自分自身の言葉を探し当てるまでの時間を、ただ信じて尊重すること。
途中で訪れる沈黙を恐れず、急がずに、その場にただ一緒に居続けること。
それは一見、何もしていないように見えて、相手を最も深く尊重する姿勢なのだと思います。
温泉のような存在でありたい
私は、温泉が好きです。
温泉は、やってきた人に対して「もっと頑張れ」とも言いませんし、「こうやって生きなさい」と指図することもしません。
ただそこに満ちていて、訪れた人の身体を静かに、包み込むように温めてくれます。
湯に身を委ねているうちに、知らず知らずのうちに肩の力が抜け、凝り固まっていた心が少しずつ柔らかくなって、気がつけば視界がふわっと広がっている。
そんな感覚を覚えることがあります。
誰かの相談に乗るときの佇まいも、どこか温泉のようでありたいと思うのです。
相手を無理に押し動かすのではなく、その人が自然と自分自身を見つめ直せるような、温かい状態をつくること。
答えを外から与えるのではなく、その人の内側で何かが育つのを待つための、心地よい余白を残しておくこと。
もちろん、私自身もまだまだ十分にはできていません。
目の前の人の悩みを前にすると、つい先急いで答えを言いたくなってしまうこともありますし、一刻も早く解決してあげたい、と心が逸ることもあります。
それでも、誰かの相談に乗るとは何だろうと立ち止まるたびに、いつもここに立ち返るのです。
大切なのは、何かをしてあげること以上に、その人が歩んできた、そしてこれから歩んでいく人生に対して、静かな敬意を払い続けることなのだ、と。
相手の人生は相手のもの
誰かの相談に乗るとき、私たちはつい忘れてしまいそうになります。
どんなに相手を想っていても、どれだけ豊かな経験や正しいノウハウを持っていたとしても、その人生を生き、その足で歩んでいくのは、目の前の本人なのだということを。
だからこそ、相談に乗るという関わりは、相手をどこかへ「導く」ことではなく、ただただ「尊重する」ことから始まるのかもしれません。
その人が巡らせている考えを、尊重する。
その人が抱えている真っ最中の迷いを、尊重する。
そして、その人が自分の人生を、自分の責任で選ぶ権利を、尊重する。
私たちが磨いてきた「問題解決力」という技術は、そうした深い尊重の土台があって初めて、そっと活かされるものなのだと思います。
高度なスキルや、巧みな話術よりも先に、必要な心構え。
それは、答えを急いで手渡す人になることではなく、その人が自分自身の答えに出会うための時間を、ただ信じて支えられる人であること。
そのために私たちは、技術を磨くこと以上に、自分自身の「あり方」を静かに問い続ける必要があるのかもしれません。
私は今、相手のために話を聞いているだろうか。
それとも、自分の正しさを伝えるために、話を聞いているだろうか。
まとめ
- 相談に乗る際は問題解決力よりも相手への敬意が先に必要である
- 人は他人の正しい答えではなく、自分で納得した答えによって動く
- 良い相談相手とは答えを与える人ではなく、思考を支える人である
併せて読みたい一冊
『コーチングの基本』コーチ・エィ
相手に答えを与えるのではなく、相手の中にある答えを引き出すとはどういうことかを、わかりやすく整理した一冊です。相談や指導の場面での関わり方を改めて考えるきっかけになるかもしれません。
もっと深めるためのメモ
- 「聴く」という行為の本質から考えてみる
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- 本当に人の話を聴くとはどういう状態か
- 相手の言葉と感情、どちらを聴くべきか
- 聴くことと同意することは同じなのか
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