【課題1609】
もし、今持っているビジネス上の商品や肩書きをすべて失ったとしたら、自分には何が残ると思うか。
もし、明日。
自分が持っている商品も、肩書きも、すべて消えてしまったとしたら。
それでもなお、自分は誰かの前に立てるのだろうか――。
この問いは、少し居心地の悪さを伴います。
けれど、その違和感の中にこそ、自分の本質に触れる入り口があるようにも感じています。
たとえば、お気に入りの温泉で、湯気に包まれながら何もかもを脱ぎ捨てていくとき。
鏡に映る自分は、ただの「一人の人間」でしかありません。
ビジネスという戦場から離れ、武装を解いたその瞬間に、ふと立ち現れる自分。
今日は、そんな「肩書きのない自分」について、少し掘り下げてみたいと思います。
- 「何を持っているか」ではなく「どう在るか」を見つめる
-
スキルや肩書きといった外側の武装を一度横に置き、最後に残る「自分という人間の姿勢」について考えます。
- 不完全なまま、問い続けることを肯定する
-
理想に到達していることではなく、答えの出ない問いを持ち続けることの豊かさを共有します。
- 日々の微細な積み重ねを、自分の「層」にする
-
劇的な変化を求めるのではなく、日常の振る舞いや選択がどのように自分を形づくっていくのかを紐解きます。
この記事は「肩書きや商品を失ったときに何が残るのか」という問いについて、セールスパーソンおよびビジネス指導者としての立場から、私自身の思考を整理し共有するものです。
肩書きに寄りかかっていた頃
独立したばかりの頃の私は、「何者かであること」に強くこだわっていました。
保険という商品を扱っている自分、
営業として最前線に立つ自分、
そしていつか目に見える結果を出すはずの自分。
そうした“何かを持っている自分”でいなければ、人と向き合う資格がないような気さえしていたのです。
だからこそ、商品知識を詰め込むことや、営業スキルを磨くことに多くの時間を費やしてきました。
それ自体は決して無意味ではなかったと思います。
ただ、どこかでそれらを「自分そのもの」だと錯覚していたのかもしれません。
もしその頃に、「それらをすべて失ったら何が残るのか」と問われていたら、
きっと答えに詰まっていたでしょう。
あるいは、考えること自体を避けていたかもしれません。
その問いに向き合うことは、まるで、大切に守ってきた「自分の価値」という名の拠り所が、音も立てずに崩れ去ってしまうような怖さを伴うものだったからです。
うまくいかない経験が教えてくれたこと
その後、思うようにいかない時期が続きました。
結果が出ない。紹介も増えない。手応えも薄い。
そんな日々の中で、私は何度も「やり方」を更新しようとしました。
話し方を変え、提案の構成を練り直し、新しい手法を取り入れてみる。
けれど、不思議なほどに、どれも決定的な変化にはつながりませんでした。
そのとき、ふと小さな違和感が生まれ始めます。
「問題は、本当にやり方なのだろうか」と。
たとえば、どれだけ見た目が美しく、魅力的な香りを放つクロワッサンであっても、その中心にある生地が整っていなければ、一口食べたときの充足感は生まれません。
当時の私は、外側の焼き色ばかりを気にしていたのかもしれません。
あるとき、気づいたのです。
うまくいったときも、そうでなかったときも、
共通しているのは「自分がどう人と向き合っていたか」という、一点だったのではないか、と。
扱う商品が、あるいは話す内容が同じであっても、
目の前の人に対する姿勢が違えば、そこに流れる空気も、その後の結末も、まったく違うものになっていたように思うのです。
失ったあとに残るもの
では、もし本当にすべてを失ったとしたら。
商品も、肩書きも、積み上げてきた実績も、すべて手放したとき。
そこに最後に残るものは、何なのでしょうか。
それは、おそらく「能力」や「知識」といった、履歴書に書けるような分かりやすい言葉では表せないのだと思います。
むしろ、もっと静かで、光の当たらない場所に根を張っているもの。
たとえば――
どれだけ相手の話に、ただ静かに耳を傾けようとするのか。
どれだけ相手が抱える背景を、自分のことのように想像しようとするのか。
どれだけ誠実に、目の前の一人と向き合う時間を使おうとするのか。
そうした、技術以前の「在り方」に近いものが、最後に残るのではないかと感じています。
それは、誰かに評価されるために磨くものではなく、
自分自身がこの世界と、そして目の前の人と、どのように関わろうとしているか。
そんな、自分自身の内側にある「背筋を伸ばすような姿勢」です。
『何を持っているか』から『どう在るか』へ
以前の私は、「何を持っているか」で自分を定義していました。
商品、実績、スキル、肩書き。
それらを一つずつ積み上げていくことこそが、自分の価値を高め、誰かからの信頼を勝ち取る唯一の道だと信じていたのです。
けれど今は、それだけではないのではないか、と感じています。
むしろ、「どう在ろうとしているか」という根源的な問いのほうが、より真実に近いのではないかと。
もちろん、商品知識や磨き上げたスキルが不要になるわけではありません。
それらは、目の前の人の力になるために欠かせない、大切な道具です。
いわば、温かいおもてなしをするために整えられた、清潔な客室のようなものでしょうか。
ただ、箱(商品)がどれほど立派であっても、そこに通う「心」が欠けていれば、人は本当の意味で癒やされることはありません。
すべてを失ったときに、それでも自分の手元に静かに残っている「姿勢」。
それこそが、どんな環境の変化にも揺らぐことのない、自分という人間の土台になるのかもしれない。
最近は、そんな風に考えるようになりました。
完成しないまま向き合い続ける
とはいえ、自分が理想とする「在り方」を、常に完璧に体現できているかといえば、決してそうではありません。
日々の忙しさの中で、つい相手への配慮がなおざりになってしまうこともあります。
心のどこかで、自分の都合や効率を優先したくなる瞬間も、たくさんあります。
そのたびに、「自分はまだ、その域には達していない」と、苦い思いをすることばかりです。
けれど、それでいいのだとも思っています。
大切なのは、すでに完成していることではなく、この問いを持ち続けることそのものにあるのではないでしょうか。
「自分はどう在りたいのか」と繰り返し自分に問いかけること。
それは、まるで温泉にゆっくりと浸かりながら、冷え固まった心が少しずつ解きほぐされ、芯まで温まっていくプロセスに似ています。
一瞬で劇的に変わることはなくても、問いの熱がじわじわと染み込み、日々の選択が、そして生きる姿勢が、静かに整っていく。
そうして何度も軌道を修正しながら、また一歩、歩き出す。
その繰り返しこそが、人を人たらしめる「誠実さ」の正体なのかもしれません。
静かに残るものと向き合う
商品や肩書きは、状況によって変わります。
時代の流れや環境の変化によって、役割も形を変えていくでしょう。
けれど、その変化の激流の中でも、指の間をすり抜けずに残り続けるものがあるとしたら。
それはやはり、「人とどう向き合うか」という、一点に尽きるのではないでしょうか。
それは決して華やかなものではなく、誰かに誇示するようなものでもありません。
けれど、確かにそこにあり続けるものです。
クロワッサンの層を思い浮かべてみます。
外からは一枚ずつの重なりは見えにくいけれど、その目に見えない積み重ねこそが、全体の質と香りを決めている。
私たちの「在り方」も、そんな風に、日々の微細な選択と向き合い方の積み重ねによって、形づくられていくものなのかもしれません。
静かに残る問い
もし、明日。すべてを失ったとき。
自分は、どんな人間として誰かの前に立っているのだろうか。
何を語れるのかではなく、どんな姿勢でそこにいるのか。
何を差し出せるのかではなく、どんな眼差しで相手を見つめているのか。
その問いに、今の自分はどう向き合っているのか。
そしてこれから、どんな自分でありたいと願っているのか。
まだ、はっきりとした答えは見えていません。
ただ、答えの出ないこの問いを、大切に抱えながら歩き続けること。
その歩みそのものが、私という人間を、少しずつ形づくっていくのではないか。今は、そう感じています。
あなたにとって、
「すべてを失ったあとに残るもの」は、何でしょうか。
まとめ
- 肩書きや商品に依存していた過去の自分への違和感
- うまくいかない経験から見えてきた「向き合い方」の重要性
- 失ったあとに残るのは「何を持つか」ではなく「どう在るか」という視点
併せて読みたい一冊
『自分の小さな「箱」から脱出する方法』
人との関わり方を「自分の内側の姿勢」から見直すきっかけになる一冊です。難解すぎず、それでいて静かに自分を見つめ直す時間を与えてくれます。
もっと深めるためのメモ
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