【課題010】
本当に大事なことを、本当に大事であるとしっかり伝えるためには、どんな工夫が必要か。
「これだけは、しっかり伝わってほしい」
そう願えば願うほど、私たちは言葉に力を込め、「大事だ」と繰り返してしまいます。
しかし、熱を込めて語ったはずなのに、相手の心にどこか響いていないような、そんなもどかしさを感じたことはないでしょうか。
もしかすると、言葉が届かない理由は、私たちの熱意が足りないからではなく、むしろ「大事」という言葉を使いすぎてしまったせいかもしれません。
言葉には、それぞれが抱えられる「重さ」の限界があります。
この記事では、テクニックとしての伝え方ではなく、言葉の重さを守り、本当に大切なものを大切なまま届けるための「心の置きどころ」について考えてみたいと思います。
私自身も、営業や指導の現場で、言葉を安く扱ってしまわないよう、日々自分に問いかけています。
- 「強調」がもたらす逆説
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何かを際立たせようとすべてを強調すれば、結果としてすべてが平坦になってしまいます。
「大事」という言葉を絞ることで、初めて生まれる「静かな輪郭」に目を向ける視点。 - 言葉の「余白」を信じる
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すべてを語り尽くし、重要性を押し付けることが、必ずしも誠実さとは限りません。
語らない部分を作ることで、相手が自らその「重さ」に気づくための余白を、どれだけ大切にできるかを考えます。 - 「言葉の扱い」は「相手への敬意」
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言葉を丁寧に選ぶことは、その言葉を届ける相手を尊重することでもあります。
自分が発する言葉の価値を自分自身で守り抜くという、一人の人間としての「在り方」を見つめ直します。
この記事は、「本当に大事なことをどのように伝えるべきか」という問いについて、営業の現場での経験をもとに、言葉の重さを守るという視点から私自身の考えを整理したものです。
大事なところは必ず強調すべきなのか
仕事をしていると、「これは大事なことだから覚えておいてください」と伝えたくなる場面があります。
指導の場面でも、営業の現場でも、「ここは重要なポイントです」と強調したくなることは少なくありません。
しかし、ふとこんな疑問が浮かぶことがあります。
本当に大事なことは、きちんと“大事なもの”として伝わっているのだろうか。
そう考えるきっかけになったのは、営業の指導をしているときの出来事でした。
ある人が、「大事なことはちゃんと伝えているつもりなのに、なかなか相手に響かない」と話してくれたのです。
そのとき私は、少し意地悪な質問をしてみました。
「その“大事なこと”は、どのくらい言っていますか?」
すると、その人はこう答えました。
「結構言っていると思います。大事なところは必ず強調しています。」
その言葉を聞いて、私はあることに気づきました。
もしかすると、本当に大事なことが伝わらない理由は、
大事だと言いすぎていることにあるのかもしれない、と思ったのです。
「大事」という言葉が軽くなる瞬間
人は「これは大事です」と言われると、その言葉に耳を傾けます。
しかし、それが何度も繰り返されると、少しずつ感覚が変わってきます。
「これは大事です」
「ここも大事です」
「このポイントも大事です」
そう言われ続けると、聞いている側は次第にこう思い始めます。
「結局、どれが一番大事なのだろう」
そしてそのうち、「大事」という言葉そのものの重さが薄れていきます。
まるで、オオカミ少年の話のように。
最初は驚いていた言葉も、何度も繰り返されるうちに、次第に特別なものではなくなってしまうのです。
これは決して相手が真剣に聞いていないわけではありません。
むしろ、人の自然な反応なのだと思います。
だからこそ、本当に大事なことを伝えたいのであれば、
「大事」という言葉の扱い方を少し考える必要があるのかもしれません。
私が決めていること
私は生命保険の営業をしていますが、少し特殊なやり方をしています。
初回の面談は30分以内。
その時間の中で、「加入意思の明確な言語化」と「紹介の獲得」まで完了させると決めています。
一般的な営業の流れとはかなり違うやり方なので、驚かれることもあります。
ただ、この方法を続けていく中で、一つだけ強く意識していることがあります。
それは、初回面談を徹底的に大切にすることです。
「そんなことは誰だって同じだ」と言われそうです。
でもおそらく誰よりも、初回面談を重く考えてはいると思います。
お客様と初めて向き合うその30分は、この仕事の中で最も重要な時間だと考えています。
だからこそ、その面談の中で私は、ある言葉を使います。
「これは本当に大事なことです。」
そして私は、この言葉を使う場面を、その初回面談の中だけと決めています。
普段の会話や説明の中では、ほとんど使いません。
何かを説明するときも、「大事」という言葉はできるだけ使わないようにしています。
なぜなら、その言葉の重さを守りたいからです。
言葉の重さを守るということ
言葉というのは、不思議なものです。
同じ言葉でも、使い方によって重さが変わります。
頻繁に使われる言葉は、次第に特別な意味を持たなくなります。
しかし、めったに使われない言葉は、それだけで強い印象を残します。
だから私は、「これは本当に大事です」という言葉をここぞという場面だけで使うと決めています。
そうすることで、その言葉が出たときに、相手も自然と耳を傾けるようになるからです。
これは、特別なテクニックというほどのものではありません。
むしろ、とてもシンプルなことです。
ただ、言葉の重さを守るという意識を持つこと。
それだけで、伝わり方が少し変わることがあるように感じています。
大事なことを大事に扱う
本当に大事なことを伝えるためには、特別な表現が必要なのかもしれないと思うこともあります。
しかし実際には、もっとシンプルなことなのかもしれません。
それは、本当に大事なことを、大事なものとして扱うことです。
言葉を安く使わない。
強調しすぎない。
むやみに繰り返さない。
そうして、その言葉の重さを守っていく。
そうすると、ある場面でその言葉が出たとき、自然と相手に伝わる力を持つのかもしれません。
自分に向けている問い
だから私は、ときどきこんな問いを自分に向けてみます。
自分は、本当に大事なことを、本当に大事なものとして扱えているだろうか。
そしてもう一つ。
自分は、その言葉の重さを守れているだろうか。
もしその問いを忘れずにいられたなら、
大事なことは、少しずつ大事なものとして伝わっていくのかもしれません。
まとめ
- 「大事」という言葉を多用すると、その重さは薄れてしまう
- 本当に大事なことを伝えるには言葉の使いどころを絞ることが必要
- 言葉の重さは、どれだけ大切に扱っているかで決まる
併せて読みたい一冊
『「空気」の研究』山本七平
人は言葉そのものより、その場の空気や文脈から意味を受け取ることがあります。
言葉がどのように伝わり、どのように重みを持つのかを考えるうえで、多くの示唆を与えてくれる一冊です。
もっと深めるためのメモ
「言葉の重さ」をさらに深めてみる
- なぜ人は、言葉の重さを自分で軽くしてしまうのか
- 言葉の重さは、どのようにして生まれるのか
- なぜ同じ言葉でも、人によって伝わり方が違うのか
「伝える構造」に踏み込んでみる
- 本当に大事なことは、なぜ一度では伝わらないのか
- 伝える側は「どこまで言うべきで、どこから言わないべきか」
別の角度から考えてみる
- 人はなぜ、「本当に大事なこと」ほど後回しにしてしまうのか
- 「大事にしている」と「大事に扱っている」は何が違うのか