【課題881】
自社で取り扱っている商品やサービスの、「ワンランク上のもの」を企画する時にはどのような工夫をするとよいと思うか。自分なりの考えをまとめてください。
コンビニのコーヒーでも、喉を潤すには十分なはずです。
それなのに、ふと、わざわざ専門店を訪ねて、丁寧に入れられた一杯を選びたくなるときがあります。
そのとき私たちが求めているのは、豆の品質や価格の差だけなのでしょうか。
そこには、言葉にすればこぼれ落ちてしまうような、
けれど確かに心が求めている「何か」が潜んでいるような気がしてなりません。
今回は、商品やサービスの「ワンランク上」という言葉の奥にあるものを、
皆さんと一緒に静かに掘り下げてみたいと思います。
- 「機能」の向上ではなく、「あり方」の美しさに目を向ける
- 「選択肢」を増やすのではなく、「迷わない」という安らぎを届ける
- 「万能」を目指すのではなく、あえて「絞り込む」ことで純度を高める
この記事は、「ワンランク上の商品とは何か」という問いについて、セールスパーソンおよびビジネス指導者としての立場から、自身の思考を整理し共有するものです。
「ワンランク上」を考えたときの違和感
「今よりも、ワンランク上のものを」
そう企画の席で話し合うとき、私たちの思考はつい「足し算」に向かいがちです。
機能を、もう一つ増やす。
付加価値を、さらに積み上げる。
品質の数値を、より高める。
それは決して間違いではないはずなのに、その方向へ懸命に歩みを進めるほど、どこかで「何かが違う」という静かな違和感が胸をかすめることがあります。
便利で、隙がない。
けれど、どこかで見かけたことがあるような、決め手に欠ける感覚。
どれも正解なのに、誰の心にも深く刺さらない——。
そんな「正解の迷路」に迷い込んでしまうのは、なぜなのでしょうか。
そこでもう一度、自分にこんな問いを投げかけてみます。
「その商品を手に取った人は、どんな自分になれていると嬉しいのだろうか」
スペックの向上ではなく、使う人の「心の景色」に目を向けてみる。
この小さな視点の変化が、“ワンランク上”という言葉の意味を、根本から書き換えてくれるような気がするのです。
「満足」ではなく、「どんな自分でいられるか」
私たちは、当たり前のように「お客様に満足してほしい」と願います。
けれど、その“満足”の中身を覗いてみると、実は驚くほど多様であることに気づかされます。
スペックを満たしたときに得られる、一時的な充足感。
それも一つの満足かもしれません。
けれど、そこからもう一歩だけ、問いを深めてみたいのです。
「その人は、その商品を使うことで、自分自身のことをどんなふうに感じられるのだろうか」
再び、コーヒーのことに思いを馳せてみます。
喉を潤すという目的だけなら、どこでも手に入る一杯で事足ります。
それでもあえて、静かな時間が流れる専門店を訪ねる人がいる。
そこにあるのは、味の好みだけではなく「自分の時間を、自分自身で丁寧に扱っている」という、静かな自負のようなものではないでしょうか。
もしそうだとするならば、本当に届けているのは飲み物そのものではなく、
「自分の時間を大切にできている自分」という、ある種の肯定感なのかもしれません。
そう考えると、商品とは単なる「便利な道具」の集合体ではなく、
なりたい自分、あるいは、保ちたい自分でいるための「媒介」のような存在に見えてくるのです。
選ばせるのではなく、「迷わせない」という価値
視点をさらに、もう一歩だけ踏み込ませてみます。
「その理想の状態にある人は、日常の中でどんなふうに振る舞っているのだろうか」と。
例えば、心に余裕があり、自分に似合うものをよく知っている人。
そんな人を思い浮かべたとき、一つの共通点に突き当たります。
彼らは、自分にとっての「正解」を持っていて、無駄に迷う時間に人生を費やしていない、ということです。
今の時代、私たちは「選択肢を増やすこと」こそが豊かさであり、サービスの向上だと信じがちです。
けれど、膨大な選択肢を前に立ち尽くすとき、私たちの心には「選ぶ」という行為そのものが、小さな、けれど確かな負担として積み重なっています。
もし、お客様が本当に求めているものが「たくさんの選択肢」ではなく、
「迷わなくていいという安らぎ」だとしたらどうでしょうか。
あえて選択肢を絞り込み、「これさえあれば、間違いありません」と静かに差し出す。
それは、機能の優劣を競うことよりも、ずっと贅沢で、受け取る側の時間を尊重した「ワンランク上の配慮」なのかもしれません。
選ばせることの誇りではなく、迷わせないことの誠実さ。
企画の根底にその視点を置いたとき、商品の佇まいは、より凛としたものに変わっていくように思うのです。
気づかれていない不便さに目を向ける
もう一つ、企画の種として大切に持っておきたい視点があります。
「お客様自身さえ、まだ気づいていない不便さはどこにあるだろうか」という問いです。
人は驚くほど、不便さに慣れてしまう生き物です。
そして、一度慣れてしまった違和感は「当たり前」の景色になり、わざわざ言葉にされることもありません。
例えば、毎日使う財布からカードを抜くとき、指先に感じるほんのわずかな引っ掛かり。
あるいは、レシートが少しずつ溜まっていくときの、小さなためらい。
「そんなものだ」と受け流してしまえるほど些細なこと。
けれど、その「違和感にさえなりきらないノイズ」を丁寧に掬い上げ、静かに解消していく。
派手な新機能として謳うのではなく、使う人が「なぜか分からないけれど、心地よい」と感じる。
その“なぜか”の正体は、作り手が注いだ、言葉にならないほどの微細な観察眼であり、相手を思う時間そのものなのではないでしょうか。
説明し尽くせる価値のさらに奥にある、こうした静かな気遣いこそが、本当の意味で「質」を決定づけるのだと感じています。
「何でもできる」より、「これだけは負けない」
最後に、企画の迷路で立ち止まったとき、必ず立ち返りたい問いがあります。
「その商品は、何でもできる必要があるのだろうか」ということです。
多くの機能を詰め込めば、一見、価値は高まったように見えるかもしれません。
けれど、万能を目指せば目指すほど、その商品にしかない「体温」のようなものは、少しずつ薄まり、ぼやけていってしまう。
むしろ、「これだけは譲れない」という一点にすべての熱量を注ぎ込む。
あえて他のすべてを削ぎ落とした先にこそ、商品全体に、揺るぎない「静かな強さ」が宿り始めるように思うのです。
例えば、ただ「書く」という行為の心地よさだけを、ひたすら見つめてつくられた一本のペン。
あるいは、一日の始まりを整えることだけに特化した、朝のための一杯。
決して万能ではない。
けれど、その潔さがあるからこそ、ある人にとっては、他の何物でも代えられない存在になっていく。
すべての人に選ばれようとするのをやめ、誰かの一等星になる。
その覚悟こそが、「ワンランク上」という高みに繋がる、唯一の道なのかもしれません。
「ワンランク上」とは何かを、改めて考える
改めて「ワンランク上」という言葉を眺めてみると、それは単に機能を積み上げた「高さ」のことではないように思えてきます。
・その商品を通して、どんな自分でいられるかの景色を描くこと。
・本人がまだ気づいていない小さな不便さに、そっと手を添えること。
・そして、勇気を持って「これだけ」を研ぎ澄ませ、絞り込むこと。
そうした、目に見えにくい選択を一つずつ積み重ねた先に、いつの間にか「立ち現れてくるもの」。
それが、本質的な価値というものなのかもしれません。
私自身も、こうした企画に向き合うとき、迷いがないわけではありません。
むしろ、多機能の誘惑に負けそうになったり、正解のない問いに立ち止まったりすることばかりです。
けれど、簡単に言語化できないからこそ、その「問い」を持ち続けること自体に、私たちの仕事の、そして生きる意味が宿っているような気がしています。
静かな問いとして
いま自分たちが、誰かに届けようとしているその一品は、
手にした人に、どんな自分をプレゼントしようとしているのでしょうか。
そして、その一品を企画するプロセスを通して、
自分自身は、どのような「あり方」で、誰かの人生に関わりたいと願っているのでしょうか。
正解のないこの問いを、
これからも、大切に抱えながら歩んでいきたいと思います。
まとめ
- 「ワンランク上」とは機能ではなく“ありたい自分”の再定義
- 気づかれていない不便さに価値のヒントがある
- 万能さではなく一点集中が印象をつくる
併せて読みたい一冊
『コンセプトのつくりかた』 玉樹真一郎
「何を売るか」ではなく「どんな意味を届けるか」を考えるためのヒントが、具体例とともに整理されています。
商品を通じて“どんな存在でありたいか”を言葉にしたいときに、静かに思考を支えてくれる一冊です。
もっと深めるためのメモ
「理想の自分」をさらに具体化してみる
- 顧客が“その商品を選び続ける人”になるのは、どんな瞬間か?
- “この商品を使う自分が好きだ”と感じるのはどんなときか?
- 顧客がその商品を“人に勧めたくなる理由”は何か?

「気づいていない不便さ」を見抜く力を磨く
- 顧客は何に“慣れてしまっている”のか?
- 不満として言語化されない違和感は、どこに潜んでいるか?
- “便利にしたはずなのに使われない理由”は何か?
「削る」ことの本質に向き合う
- 何を“やらない”と決めることで、この商品は際立つのか?
- 機能を増やしたくなる自分の心理はどこから来ているのか?
- “足りなさ”を残すことで価値になるケースはあるか?
「競合」ではなく「代替される存在」を考える
- 顧客は本当は何の代わりにこの商品を選んでいるのか?
- この商品がなくなったとき、顧客は何で代替するのか?
- 競合ではなく、“時間の使い方”と競っている可能性はないか?
「自分たちらしさ」に引き寄せる
- この商品は“自分たちにしかできない理由”は何か?
- なぜ自分たちがこれをやる必要があるのか?
- この商品は、自分たちのどんな価値観を体現しているか?

「営業・提案」との接続を考える
- “ワンランク上の商品”は、どのように伝えれば価値が伝わるのか?
- 顧客がその価値に気づく“対話”とはどんなものか?
- 商品ではなく“あり方”を売る営業とは何か?

少し抽象度を上げてみる
- 価値とは“優れていること”なのか、それとも“意味があること”なのか?
- 人はなぜ“少し良いもの”を求めるのか?
- 選ばれるとは、どういう状態のことを指すのか?
